21歳の蒼い時

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私は数十年前の歌謡曲が好きで、
ブログを書きながらでもバスの中でも
いつでもよく聴いている。
謡曲には根強いファンが多いからか
最新の流行曲を扱うよりも高頻度で
テレビで歌謡曲が特集されてるのを目にする。

なんとなくつけていた歌謡曲の番組で
「モモエちゃん」が映っていた。
顔の右下に当時の年齢(じゅう何歳)。
画面の下中央には年齢にそぐわないような
挑発的な歌詞がのっている。
その歌詞を「モモエちゃん」は
涼しい顔で力強くなぞる。
とても美しいけれど、今はどうしてるの…?
と思ってネットで調べてみると、
結婚を機に歌手を引退したと書いてあった。
謎深い歌手だなあと思っていた。

お気に入りの本屋さんで新しく読む
文庫本を物色していたら、著者のところに
山口百恵」とある本を見つけた。
『蒼い時』…どうやら自叙伝か。
「モモエちゃん」のことが知りたくて、
彼女が紡ぐ言葉に触れたくて購入した。

驚いたことに、山口百恵さんが
『蒼い時』を書いたのは21歳のとき。
今の私と同い年だった!!
結婚を機に、歌手を引退したとき。
それが21歳のときだったとは。

山口さんが当時の「かわいこちゃんブーム」とは違う路線で歌手活動をやったわけ、「〜らしくない」で批評されていたときの気持ち、どんな思いでステージを作ったか、歌を歌ったか、化粧をしたか。みんな彼女の言葉で書いてあった。勝手にあることないことを週刊誌に書かれて裁判を起こしたというとき、その一連の流れやどんな心持ちだったかということも書いてあった。

そして「彼」のことも…とくに、山口さんの旦那さんとなった三浦友和さんとのこともたくさん書いてあった。どこが恋のはじまりだったのか、どうやってお互いの気持ちを知ったのか。若い女性の書いたものだし、結婚した頃の文章だったこともあるけれど、山口さんは「彼」にはとくに、歌手活動や人生の分岐点を大いに支えてもらっていたことが伝わってきた。

複雑な生い立ちを経験し、歌手としてほかの女の子とは違う青春時代を過ごしてきた山口さん。ひねくれたりせず、威張りもせず、謙虚に自分の軸に流されないように生きてきた彼女の人間性がかっこよかった。

家庭は、女がごくさり気なく、それでいて自分の世界をはっきりと確立することのできる唯一の場所なのではないだろうか。春は春らしく、夏は夏らしく旬のもので四季折々に、テーブルを飾る。家庭を守る人間として、いつも周りの人たちを安心させられる場を作る。

山口さんが芸能界を引退すると発表したとき、さまざまな反応があった。ずっと、自立した、クールな人に見られていた。「あなたのおかげで、女性の地位は十年前に逆戻りしちゃったのよ」「もったいない」「あなたも、所詮はただの女にすぎなかったのですね」こんなことを手紙で送ってくるファンもいた。それでも潔く、そして愛する人の生活を支えようと自分から望んで決断したのが山口さんだった。

化粧というものは、女にとって戦場に向かう男たちの鎧のように意味があるのかもしれない。だから、私は戦う場所ではなく、心をゆだねる愛する人に対してくらいは、鎧を脱いで自分らしく接してみたいと思うのである。

出生、性、裁判、結婚、引退、と章が続いたあとは、「随想」の章になる。「随想」で山口さんは自分の身の回りのこと、経験してきたことをランダムに語ってみせる。

女の人がみんなこんな考え方ではないと思うけれど、こういう人もいるんだよということ、歌手をする人がみんなこんなふうではないけれど、こんな人がいたっていいわよねと、山口さんはさり気なく耳打ちしてくるようだ。この本を読んでいるとそう伝わってくる。


「今、モモエちゃんの本を読んでるんだ」と母に言ったら、「なんだっけ…たしか『蒼い時』だよね」と返ってきた。本が出た当時、すごく売れたらしい。たくさんの人に読まれてきた本なんだな。

21歳のモモエちゃん、かっこよすぎます。

蒼い時 文庫編集部 (集英社文庫 126-A)

蒼い時 文庫編集部 (集英社文庫 126-A)