新しい東京の記憶を

14歳の頃からの夢が叶った。

ずっとずっと会いたかった友人に会えた。

 

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14歳の頃…さかのぼること6年半前。中学2年生の終わりに近づいた頃、私はあるブログを作った。そのブログサイトはアメブロ以上に、ブログを持つ人同士が交流できるものだった。

 

私が中学生の頃は、ホームページや前略プロフ、クルーズブログを見る限りネットにいる同い年は「ギャル」が多かった。当時の私より少し上の歳になると、当時流行っていた「森ガール」が多くなった。そんな当時のブログサイトには渋谷系と原宿系が混在していてにぎやかだった。

 

どちらかというと「ギャル」より「森ガール」に近かった14歳の私はのんびりと日々のことを綴った。部屋にあるお気に入りのもののこと、母と食べに行ったおいしいランチのこと…そんな私にコメントで話しかけてくる人はやっぱり少し年上の「森ガール」っぽい人々だった。

 

そんな中で、同い年かつ雰囲気も似ているHちゃんという人とコメントを送りあうようになった。隣の県に住んでいる子だった。

 

今でこそfacebookTwitterの流行でネットに顔を出したり、名前を公開したり、ネットで出会った人と気軽に面会することが一般的になってきた。でも、私がHちゃんと出会った頃はまだ、そうじゃなかった。当時読んでいた雑誌の「本当にあった怖い話」の読者投稿欄に、「ネットで出会った同じ年の女の子に会ったらオジサンだった!」なんてのもあった。

 

そのブログをやっていた期間は短かったけれど、Hちゃんとはメールをするようになった。なんと、何かの拍子でHちゃんは私が幼稚園で仲良くしていた子(小学生になってから隣県へ引っ越した)の知り合いであることが分かった。はじめて出来た「ネットで知り合った友達」が、実は友達の友達だったことが分かって面白かった。

 

年賀状も交換するようになって、住所が必要になったのでその時はじめて本名も知った。届いた年賀状は心のこもったメッセージと美しい絵で溢れていてとても嬉しかったことを覚えてる。

 

友達になった頃から、「いつか会えたらいいね!」と言っていた。Hちゃんの住むところに行くには1日にバスが2往復出ているし、日帰りで会えない距離でもなかった。新潟で会うならどこでお昼を食べようかなとか、あのお店は一緒に回りたいななんて想像した。でも、お互い高校生になり、予定が合わないまま高校も卒業してしまった。

 

ブログやメールの交流のかわりに、お互いしか入れない鍵付きのホームページを作って交換日記みたいにしていた時期があった。今こうやって文章中心のブログを書いているのも、Hちゃんに読んでもらうためにいつも文章を書いていたからやりやすいのかもしれない。今見返したらしょうもないことばかりだけど、その時本気で悩んでいたことと、学校の友達に相談できないことも、密かに嬉しかったこともなんでも書いていた。Hちゃんに特に何か言ってほしいわけでもなかった。ただ、見守っていてくれる存在がうれしかった。

 

Hちゃんは現在、東京のデザイン系の専門学校に通っている。東京は私にとって、隣県に行くよりも近い距離に感じた。春からの進路を打ち明けてくれたのは1年前の今頃で、ずっと言ってきた「いつか会おうね」が近いうちに叶いそうだと思った。

 

そしてこの夏、私がインターンで1週間東京に滞在することになった。余裕を持って前泊をすることに決めてよかった。タイミングよく、私が東京に到着する日にHちゃんも予定があいていたのだ。いよいよ夢がひとつ叶うんだ、としみじみした。

 

話は戻るけれど高校の時、国語を教えてくれた先生が面白かった。芸人的な面白さというより、興味深い人だった。その先生は、詳しいことは忘れたけれど、10年くらいネットで文章を書いていて、ひとり読者がいたらしかった。1度だけその人と会ったのだと授業中に話してくれた。私は、先生が自分とまったく似たようなことをしていたのでドッキリした。そしてその時もやっぱり、いつかHちゃんに会ってみたいと思っていた。

 

私はHちゃんにブログで出会った2010年の夏、母と銀座に行った。あれが家族と一緒に行った最後の東京の記憶だ。美味しいオムライスを食べて、文房具店を回った。「とらやのようかん」も食べた。そして大学生になって本屋で手に取った文庫『銀座の喫茶店ものがたり』を読んで、また銀座に行きたいと思っていた。

 

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Hちゃんは絵を描いている。私は銀座にまた行きたい。最近昔ながらの喫茶店が好きだし。きっと、Hちゃんも昔ながらの喫茶店が好きだと思った。私は思い切って、銀座で待ち合わせようと誘った。文房具店を回って、喫茶店に寄ろうって。

 

高速バスが東京駅に着くので、有楽町のほうが行きやすいよとHちゃんが教えてくれたので、「有楽町で逢いましょう」になった。

 

ぼうっときっぷ売り場の路線図を眺めていたら、長めのボブの髪型で目がくりっとしている、赤い口紅のすてきな人がこっちへ歩いてきた。「ありすちゃんだよね?!」とその人が言った。

 

「わぁ」とか「おぉ」とか「えぇ」、何と言ったのか忘れてしまったけど、とても嬉しかった。「はじめましてだね?」と不思議な感じになった。6年半も友達をしてきて、初めて会うなんていう人は今までの私の人生ではじめてのことだったから。

 

雨が降っていた。東京駅に着いた頃からやけに緊張していたので、荷物と一緒に折りたたみ傘を預けてきてしまっていた。ファミリーマートで買った傘は、強くなった雨足にも対応してくれた。

 

伊東屋を探した。6年前の夏の記憶より、伊東屋はきれいになっていた。初めて会う人と、50万円もする万年筆を見た。150円だけど伊東屋オリジナルの美しいデザインで、書きやすそうなボールペンも見た。

 

文房具店を回ると言ったのに、12階もある伊東屋に2、3時間もいた。こりゃもはや銀ブラじゃない。高層な文房具店から見る景色はすごかった。私は今いる階より高いビルたちを眺めていた。Hちゃんは持ってきていた一眼レフで、この景色を撮りたいと言った。

 

私が見ているところと同じ方向にカメラを向けるとばかり思っていたのに、彼女は階下の手前に見えるビルの屋上を撮った。忘れ去られたピンクや黄緑のタオルが、屋上で雨ざらしになっているところも彼女はくまなく見ていた。

 

ミランダという名前のついている種類のきらきらした紙や、めずらしい家具も見た。伊東屋の11階ではなんと、フリルレタスを栽培中だった。私はおみやげとポストカードを、Hちゃんは一目惚れしたらしいピンクのノートブックとポストカードを買った。

 

そのあと、私が持ってきていた文庫『銀座の喫茶店ものがたり』に載っている喫茶店について書いてある章の名前の中から直感で、Hちゃんに行き先を選んでもらった。

 

「銀座トリコロール、良さそうじゃない?章の名前、常連客という財産だって!!」私も賛成だった。幸い、伊東屋を出て少し歩いたところから一番近いところに銀座トリコロールはあるようだった。

 

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(Hちゃん撮影)

 

そうそう、この感じがすてきだ。

回転扉を1人ずつくぐって、二階の禁煙席に腰を落ち着けた。二階の壁にある暖炉の前に、年季の入った『銀座の喫茶店ものがたり』の単行本が飾ってあって思わずHちゃんと顔を見合わせた。

 

外は雨だけれど、れんががあしらわれた内装と洋風の椅子とテーブル、カーテンのついた天窓……銀座トリコロールは「どうぞゆっくりしていってね」と私たちをあたたかく歓迎してくれた。

 

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せっかくなのでコーヒーとケーキのセットをふたりで注文した。コーヒーが注がれるとすぐさまひとくち飲む。実はブラックコーヒーが飲めないの、といつ言おうか迷うくらい、飲めてしまうコーヒーだった。おいしかったのだ。

 

チョコレートケーキはスポンジよりガナッシュの層が分厚くて、パリパリしたナッツのなにかとチョコレートでコーティングされた素晴らしいおやつだった。

 

のんびりしたブログも書いたし、近況報告やあいさつにメールも書いた。交換日記的な鍵付きのホームページ(私たちはたしかノートと読んでいた)も書いた。髪型が変わったり、学校が変わったり、好きな人が変わったり、考え方が変わったりした。そういう6年間を、電波を通して見守り合ってきたんだなぁとまたしみじみした。多分Hちゃんは、ある部分では私の6年間を一番知っている存在かもしれなかった。そりゃ思い出したくないような出来事もあったけど、Hちゃんに会ってまるっと6年間を肯定したくなった。

 

国語の先生の話をした。

「え、先生は1回しかその人に会わなかったの?」「そうみたいだよ……」「そりゃなんか悲しいね。私たちはまた会おうね」

 

あんまり過去の話をしている時間はない。今のこと、今好きなこと、おすすめの映画、これからのこと、どんどん強くなる雨足を横目に私たちは語り合っていた。

 

Hちゃんは好きなものがあって、それはとてもセンスがよくて、日々を楽しむすてきな女の子だった。しずかに話すタイプだった。今は何をやりたいか、やるべきかがちゃんとわかっている感じがした。

 

新宿に電車がついて、私が先に降りた。はじかれるように降りた。

 

改めて、彼女と友達になれてよかったと思った。またいつか、会いたい。それまでに私も、好きなことをもっともっとたくさん見つけたい。