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杏の気分ほろほろ

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そろそろストーブを出そうか、お風呂上がりには暖かい靴下をはくべきか、出かけるときはもう冬用のコートが必要か。冬を乗り越えるための工夫ひとつひとつの凝らしどころにタイミングのよしあし(これは風邪をひくかひかないかにもかかっている!)が問われる時期になった。

 

紅葉が見頃ですとニュースが伝える。

 

好きな、チャットモンチーの7〜10年前のシングルを順番にみんな聴いてしまってもまだまだ読書の時間には足らない。恋の煙から染まるよ、ラストラブレターが耳元をすり抜けてゆく。

 

10月27日から11月9日までが読書週間だと聞いたので、いつも変わらず読んでるくせに「本、読まなきゃ」と改めて意識をする。

 

そんなとき、

心待ちにしていたエッセイが発売された。

 

 

杏の気分ほろほろ

杏の気分ほろほろ

 

 

 

杏 著 『杏の気分ほろほろ』

 

朝ドラ「ごちそうさん」から、公開を間もなくにひかえる「オケ老人!」まで、杏さんの仕事に対する姿勢や新しい家族についてが、杏さんの優しい言葉で綴られた一冊。

 

「かなしい」という言葉は、古語では「愛しい」とも表記する。悲しみ、怒り。それら負の感情は、愛とか慈しみとか、正の感情があるからこそ生じる表裏一体のものなのかもしれない、と思う。

 

何かを演じていると時に、涙を流すことを求められる。役者たちは何を思って涙を流しているのか気になっていた私に、杏さんはヒントを与えてくれる。

 

「でもさ、自分の元に仕事が来たってことは、自分と仕事をしてみたいっていう想いを持った人がいるってことだよね」

 

これは杏さんがモデルだけでなく女優の仕事を引き受けることについて迷っていたころに、福山雅治さんとの対談で頂いた言葉だそうだ。

 

「杏の気分ほろほろ」に書かれているのは2013年から現在。幽霊、北条政子、大正から昭和の時代を生きため以子、銀行員の花咲舞、理系をきわめた依子、そして指揮者とヴァイオリン弾き…多忙な中でどの役にも入念な準備をして挑んでいる杏さんの姿勢は、見ていてこちらもしゃんとする。

 

台本は全て手書きでノートに書き写して髪を乾かしながら覚える。細長い、珍しい手指をしていると手先の吹き替えが用意できないため、使い慣れない和包丁も自分の手とともにカメラに映らなければならなくなった。そこで大阪の鍛冶屋の街・堺を訪れ自分の和包丁を作ってもらって練習したという。

 

古きよきを大切にしながら、人生で出会う新しいことに素直に飛び込み、今後の自分の糧にしていく…。そこで出会う人たちも大切にする。

 

前作『杏のふむふむ』ももちろん面白かったけれど、『杏の気分ほろほろ』を読んでいて一番顔がほころんでしまったのは東出昌大さんとのこと。

 

ごちそうさん」の撮影で10ヶ月の大阪生活をしている時、撮影の合間を縫って二人で淀川にウナギ釣りをしに行ったとか。 結婚式で着ていた白無垢は、モデルとして毎年参加してきた「ファッション・カンタータ」で身に纏っていた衣装のブランドの人が作ってくれたという。

 

つい「ごちそうさん」の思い入れのあるシーンの記述や杏さんのおじいさん・おばあさんとのことについて書かれた文章を見てうるうるっときてしまった。

 

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子育てをしていると、几帳面な依子や料理好きなめ以子など、かつて演じてきた役たちが顔を出すという。SNSをしている芸能人も多いなか、SNSをしていない杏さんの今を教えてくれるのはラジオや雑誌の連載(『杏の気分ほろほろ』は朝日新聞デジタルの連載を加筆して書籍したもの)くらいである。

 

それでもこうしてエッセイを読んでいて、「ああ、あの作品のあのシーンにはこういうエピソードがあったんだ!」「出刃包丁の名前の由来って、やっぱりそうだったんだ…」と新しくしることにふむふむとうなずいたり、くすっと笑える瞬間がある。杏さんの文章を楽しみにしてきてよかったといつも思う。

 

空気が冷たくなり、ますます朝や晩に暖がかかせない季節がやってくる。そんなときにそっと寄り添ってくれる一冊だ。

 

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