『おちくぼ姫』

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そのおもしろさを、

わたしと筆がうまくお伝えできると

いいのですがーーー。

 

というまえ書きがむすばれ、物語が始まる。

 

田辺聖子 著 『おちくぼ姫』

 

千年前のシンデレラ物語として今に残る

落窪物語』を、田辺聖子さんが

やさしく現代訳してアレンジした作品だ。

 

『孤独な夜のココア』や

ジョゼと虎と魚たち』を昨年読み

田辺さん独特のやさしい表現や

ほろりとした関西弁の言い回しに

私はすっかり惹かれてしまって、

今年初めての買い物にこの本を選んだ。

 

日本の古典のシンデレラ、ということで

継母に虐げられて暮らす主人公おちくぼと

王子さま(貴族)が出会い、

恋をする…という大筋はお馴染み。

主人公を虐げる継母の醜さと、

その虐め方の滑稽さもそのままだ。

 

ディズニーアニメ映画のシンデレラでは

毎朝早く起きててきぱき働くシンデレラに

エプロンをつけてあげたり、

シンデレラから朝食のおこぼれをもらったり

シンデレラと仲良しの小鳥やねずみがいる。

『おちくぼ姫』でのその役割は、

おちくぼ姫の世話をする女・阿漕が担う。

阿漕の仲睦まじい結婚相手・帯刀もまた

阿漕をたすけ、おちくぼ姫を支える。

 

シンデレラのひみつ - 謎の国のありす

 

以前この記事でシンデレラの

「舞踏会に行きたいけれどドレスがない」

と言う言葉は彼女の自信の表れだ、

という本からの引用を載せた。

ここに、おちくぼ姫との違いを見た。

おちくぼ姫は何かと自分を下に見て、

阿漕に向かって自分を卑下する言動がある。

でもこれは日本風な奥ゆかしさとして

捉えることもできるな…と考えながら読んだ。

どんなに継母・北の方に辛く当たられても

清貧な暮らしをしている。

髪の毛は当時の美人の象徴である

黒く艶のある長い長い髪を保っている。

言葉には出さぬとも、誰に見せるでもなく

自分を美しく保とうとする姿勢も

実は自信の表れかもしれないし。

 

田辺聖子さんの綴り方では、

古典に馴染みのない若者向けに

当時の屋敷の間取りや結婚のしきたりに

ついて、本文中に説明がある。

だから前より少し当時のことに詳しくなれた。

また、歌のやりとりの現代訳も美しくて

読んでいてうっとりしてしまう。

これを中学生か高校生の時に読んでいたら

もっと古典の授業を楽しめたかも…。

 

 

人間のよろこびやかなしみ、

恋や憎しみなどは、

時代がかわってもおんなじなんだよ

 

田辺聖子さんが語りかけてくれる。

 

おちくぼ姫に恋をする少将も、

少将に仕える阿漕の夫の帯刀も、

もちろんおちくぼ姫もみなユーモアがあり

読んでいてすっかり好きになった。

 

でもいちばん「こうなりたい」と

思わせてくれたのは私は阿漕かな。

おちくぼ姫のいちばんの味方であり

機転がきいて女らしさのある人。

『おちくぼ姫』は見方によっては

阿漕のシンデレラストーリーとも言えるかも。

 

年末年始を跨いで読んでいた本を除くと

新年初めて読みはじめた本『おちくぼ姫』

またひとつ、読書の楽しみを教えてもらった。

 

 

alicewithdinah.hatenablog.com

 

 

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おちくぼ姫 (角川文庫)

おちくぼ姫 (角川文庫)

 

 

 

 

p.s.

先述した「シンデレラのひみつ」記事で

紹介した『シンデレラの教え』では

「糠福と米福」という、

東北地方に伝わるストーリーが

紹介されていて、これもいわゆる

日本のシンデレラストーリー。

他にも日本のシンデレラストーリーが

まだまだ見つかるかもしれないと

思うとますます面白い。