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『この世界の片隅に』

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晩秋に温泉旅行をしたときに、

宿の近くにあって訪れた資料館の

喫茶スペースに佇んでいた柱に

「映画『この世界の片隅に』上映決定!」

というポスターが括り付けてあったのを見た。

アニメーション映画で、主人公の声は

のんさんが担当するという。

 

そのあともイオンシネマで『オケ老人!』

を鑑賞したとき、シネ・ウインドで

『黒い暴動♡』『聖なる呼吸』を鑑賞したとき

この世界の片隅に』の予告編を

見て気になっていた。

 

有難いことにシネ・ウインドで

1日に2回も3回も上映してくれている。

スケジュールを合わせて足を運ぶと

平日の午後の早い時間だというのに

ほとんどの席に人が座っている。

 

ひとつあけて隣に座っていた女性が

私と色違いの同じ形のカバンを持っていた。

同じのを持っていた人を見たことなくて

なんだか嬉しくて話しかけたくなったけれど

映画の雰囲気に浸る準備をしたいかもしれない

…と思ってグッとこらえた。

 

舞台は昭和はじめの頃の広島・呉。

主人公のすずさんはおっとり屋さん。

賛美歌のBGMが鳴って、物語の幕開けが

クリスマスシーズンだということが伝わる。

 

2時間を超える長さでスクリーンを見つめた。

言ってしまえば「戦争もの」の、物語。

でもこんなに映画館に鼻をすする音と

くすくす笑いの声が共存する不思議な空間には

いたことがなかったから驚いた。

 

「うちは、笑顔のいれもん」

すずさんは身の回りの環境がどんなに変わって

配給の品薄さが顕著になってきても

新しい環境に慣れようとしたり、

家族があっと驚く料理を提案したり。

人生を諦めないで過ごしているように感じた。

 

想像力は、人を幸せにも悲しくもさせるんだな

 

迫る敵機を撃ち落とす日本軍の砲弾、

堕ちる前に炎で光る飛行機を見て

とっさに紙に絵の具を塗りたくりたくなる

すずさんなのだった。

どんなに悲しいことがあっても、

おっとりしている間に言葉にするのを忘れても

絵を描いてそれを昇華してきたのがすずさん。

 

見てたくないけど見ていたい、

力づくで人を泣かせることはできるし、

感動させられることだってできる。

例えば心を掴むセリフだったり、

映画音楽的なメロディだったりで。

だけど、『この世界の片隅に』は

そういう姿勢とはどこか違っていた。

涙が出てくるとしたら、心がすっかり

しぼりとられてしまって出てくる感じで。

 

今この時代を生きている私たちも、

戦争を知らない父や母の世代も、

これから生まれてくる子どもたちも、

すずさんたちが若い頃を生きた時代とは

違う価値観や文明がそこにある。

 

でもこの映画で描かれる人々の気持ちは

私たちとそう変わらないし、

これが人の心だ…というふうに思った。

 

私は、小学校の頃学校の図書室で見つけた

マンガの本『はだしのゲン』に出会ったとき

大きいショックを受けてしまった。

衝撃の大きさとしては、卒業文集に

小学校の思い出を書くべきだったのに

戦争がどんなに恐ろしいか

書いてしまうくらい、だったのだ。

 

当然調べ学習でも戦争について調べた。

興味を示したのは前線ではなくて、

戦争中の人々の暮らしだった。

当時のネットで得られる情報は限られてたし

そのあと大学の講義で聞いた話も

とても想像ができたものでなかった。

 

でも、『この世界の片隅に』を観て

おっとりゆったりしたすずさんと一緒に

その時代を少しだけ味わうことができた。

 

 大学の先輩に映画を観てきた話をしたら

「あれさ、予告編観て結末がなんとなく

想像できちゃうからなんか辛いよ…」

と言われてしまって、私はネタバレを

するわけにはいかなかった。

私は結末を想像しないで観たけれど

受け止めることが出来たので、

あんまり結末についてはなんにも

考えないで観に行ってみてくださいねと

その先輩には伝えた、と思う。

 

しばらく、映画について書こうと思いつつ

思いが溢れそうになってしまってたので

こんなに遅くの公開になってしまった。

もうすぐシネ・ウインドでの上映は

終わりになってしまうけれど、

なにか映画観たいな〜と思ったらぜひ。

 

ちなみに、はじめの方に書いていた

色違いでお揃いのカバンを持っていた女性には

とうとう話しかけられはしなかった。

お互いひとりで来ていたし、

映画の余韻に浸る時間を邪魔しては

きっといけないなと思ったからだ。

でも、映画を観ていて少し心細い気持ちに

なったとき、隣の隣の人の膝に乗っている

カバンのうさぎ模様は私のと並んで

やっと仲間に再会できた、と嬉しそうだった。

私も少しだけ心強かった。