80年代のミステリーを愉しむ

「Love Is The Mystery~♪」

時代を感じさせるコーラス付きのこの唄い出しに

こんなに背筋を震わされることになるとは。

 

小学生の頃私は読書感想文によく取り組んでいた。

夏休みの宿題にもいつもあった気がする。

書くときのコツは「本を書いた人はこの本から

読者に何を伝えたかったかを考える」ということ、

と教わった覚えがある。

それから私は本や人からの言葉など、与えられるもの全てには

理由があるのだなと考えるようになった。

目上の人からの厳しい言葉にも意図があることがほとんどだったし

本だって何か言いたげなものが多かった。

それは思春期の難しさや必要性であったり、

人として大切なことは何なのか考えさせられるものだったりした。

しかしミステリー小説だけはなぜか、

結局何が言いたいのか汲み取れなかった。

作者からのメッセージそのものがミステリーだった。

 

乾くるみ著「イニシエーション・ラブ

半年くらい、読もうかどうしようか迷った一冊。

帯を見ると「二度読みたくなる本」であると

さまざまな著名人が絶賛しているようだった。

イニシエーションとは通過儀礼

ミステリーというジャンルであることを除けば

なんとなく話の内容が分かった気になる。

 

手に取ったときの決定打は映画化されること!

「映像化不可といわれた小説がついに映画化」と

増版された本の帯には書かれていた。

前田敦子松田翔太木村文乃

キャストもすでに発表されている。

 

読書をより味わうためには目次に着目するといいらしい。

イニシエーション・ラブ」の目次を見てみると

Side-AとSide-Bに分かれている。

このように視点が分かれている作品は多いけれど、

なんだか補助器具を付けて逆上がりに成功したときのことを思い出す。

双方の気持ちが別々に描かれはっきりすると逆に煮え切らない。

でも「イニシエーション・ラブ」にはその方法が利いていた。

 

…いろいろと書きたいことがあって綴ってみたものの

せっかくのミステリーを台無しにしてしまいかねない。

再読のお供に…という巻末のページを振り返りつつ、打ち消した。

作品にしっかり迷い込んだし謎も解いた。これは映画化が楽しみ。

 

通過儀礼とは日本で言う元服や成人式など、

次の段階の為に必要とされる儀式のようなもの。

世界中には珍しかったり危険だったりする通過儀礼が存在する。

何が言いたいのかさえ謎に包まれていたミステリー小説だったが

イニシエーション・ラブ」ではそのタイトルの通り

今までに或る恋愛があってこそ、現在のその人なり

恋愛なりがあるのだということが伝わってきた。

 

続いて「セカンド・ラブ」。

こちらも目次に着目してみる。

「緩やかな動き」「誰でもない私」「二番目の愛」

「二分の一の女」「黄昏が訪れて」「うらはらな心」

初めて聞く言葉ではないような気がした。

 

中学生の時ラジオで「少女A」を聴いてからというもの

私は中森明菜さんのファンになった。

テスト期間が明けると過去のテレビ出演の映像を見たり

家にあったベストアルバムを引っぱりだしてみたり…

AKB48がブレイクして篠田麻里子さんのファンになっても

一番好きなアイドルは中森明菜さんだ!と言っていた。

 

そう、目次に書かれていたのは中森明菜さんの曲のタイトルや

歌詞を和訳しもじったものたちだった。

そのイメージがあってか、80年代を舞台にした作品であるからか、

「セカンド・ラブ」の登場人物容姿端麗な春香の見た目のイメージは

中森明菜さんそのものだった。

イニシエーション・ラブ」よりも謎を解きやすかったけれど

やはりミステリーは謎が謎を呼ぶのだなぁ。

 

終章のタイトルは「北へと向かう翼」。

すぐにピンとくる、「北ウィング」だ。

 

北ウィング (2009リマスター)

北ウィング (2009リマスター)

 

「Love Is The Mystery~♪」

今まで何の気なしに聴いていた唄い出しが

急に迫ってくる感じがしてドキドキした。

 

スマホの電池残量ではなくて

テレホンカードの度数を気にしながらの恋愛。

現代よりも姿を眩ませることはたやすかったかもしれない。

それだからこそ出会いや偶然はスローモーションで貴重だったのかも。

私自身は80年代、その時代を過ごすことはかなわなかったけれど

なんとなく想像することができた。

 

「トライアングル・ラブ」なる作品も発表されるとかされないとか。

まだまだ謎だけど、楽しみ。

 

 

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

 

 

 

セカンド・ラブ (文春文庫)

セカンド・ラブ (文春文庫)