熱い男たちの関係② ピンクとグレー

テゴマスと、友人が大好きだという小山。NEWSは全員で4人のグループで…あと1人、誰だったっけ…。いくらそんなにジャニーズに明るくないといっても、NEWSのメンバーを最近まで全員残らず挙げることができてなかった。

新刊が出てやしないかと、私は定期的に書店に出かけて文庫本コーナーを隅々まで眺める。何度も目にする「ピンクとグレー」。ベタがスイミーのように集まって水槽で泳いでいるかのように、また、絵の具をうっかり筆から落としてしまったあとのように桃色と灰色がうねうねと重なり合う表紙。

読者モデル、高校生、ステージ。表紙を引っくりかえしてあらすじから目立つ単語を探すかぎり、加藤シゲアキさんというのは若手の作家のようだ。
何度か書店で「ピンクとグレー」を捕まえてはのがした。今思うと逃がした魚はでかかった、というやつだ。

加藤シゲアキとNEWSが私の中でぴたっとつながったのは何がきっかけだったんだろう。たしか、ふとしたことだった。「映画化!」と書かれた新しい帯に巻かれた文庫本を手にし、私はレジへと向かった。

大阪から横浜へ越してきた小学生の河田大貴(りばちゃん)は、同じマンションに住む同い年の鈴木真吾(ごっち)と出逢い、中学高校大学と密接した青春時代を送る。高校生になった二人は、雑誌の読者モデルをきっかけにバイト替わりの芸能活動をスタート。大学へ進学した二人は同居生活を始めるが、真吾がスターダムを駆け上がっていく一方で、エキストラから抜け出せない河田だけが取り残されていく。やがて二人は決裂。二度と会うことのない人生を送るはずだった二人が再びめぐり逢ったその時、運命の歯車が回りだす…。
特設サイトから、あらすじを引用、加筆させていただいた。(http://www.kadokawa.co.jp/pink-gray/

著者について知るまでの道のりと、知った時のおどろきが強すぎてどうしても「アイドルが書いた小説」ということを意識せざるを得ないまま、そういうふうに読もうと開き直ってページをめくった。

加藤さん本人も、あとがきで「あの頃(執筆した頃)の自分は肩肘張ってなあ」と触れているが、比喩や表現なんかが凝っていて、独特で、「読んでくれ!」というエネルギーがひしひしと伝わってくる力のある文章だった。

テレビは5チャンネルを映している。そのうちに音楽番組の生放送が始まり、サングラスがトレードマークの司会者と女子アナウンサーが軽い会話をしてから本日のアーティストを紹介した。それぞれのアーティストの楽曲が流れる中、四・五組ほどのアーティストが順番に階段を降り、カメラの方を見たり見なかったりしていた。
しばらくはひな壇の後ろに並んでいて時折、他のアーティストの話に頷いたり笑ったりしていたが、それは自分も映っていることを知った上での意識的行動に思える。

この描写が表しているのはそう、テレビ番組「ミュージックステーション」だ。番組の視聴者が目にする情景、観ていて感じることそのままが客観的に書かれる。クールだった。

私たちの目に見える色っていうのはね、反射した光の色なのよ
ということはね、吸収されなかった色を私たちは見ているの。つまるところその物質が嫌って弾かれた色が私たちの目に映っているのよ。
私は私の色を受け入れるしかないのよ。そしてその色をしっかりと見せるの。これが私の色なのよって

この、化学っぽいエピソードも物語の中で大事な要素だ。

物語の舞台は芸能界で、私たちこは全然べつの世界だと思ってしまうかもしれない。けれど、同じ方向を向きながらやってきた親友だけが成功していくもどかしさ、愛することを愛し遂げること、望まずともいつか人間には別れの瞬間が訪れてしまうこと…それらのことの儚さがリアルだった。

僕に内在する二色は混ざらずに分離したままそれぞれを汚し合い、それら自身を擁護する。それでも僕は強制的に混ぜることでしか、次の新たな記憶を留保する方法を持っていない。

幼いころから双子のように過ごしてきた「りばちゃん」と「ごっち」は、どうなってしまうのだろうか。愛する人を愛し抜くために、彼ができたこと、彼にしか出来なかったことはなんだったか。

著者の加藤シゲアキさんは国語の授業が苦手だったそうだ。「○○文字以内で答えよ」という問題に取り組もうとすると、そんな文字数でおさまらない言葉が次々と頭の中に浮かんできたのだという。(「ダ・ヴィンチ」のインタビュー特集で読んだ)

幼いときを関西で過ごし、その後上京してきたという過去は作品の主人公「りばちゃん」と同じだ。加藤さんの文章からは、そのときの気持ちや関西と関東の景色のちがいを表現した生の言葉が届く。過ごしてきた時間を大切に過ごしてきたことが伝わる。

加藤さん属するグループ「NEWS」にはかつて、山Pさんや関ジャニ錦戸亮さんがいた。その頃のテレビ番組を見ると現メンバーは後ろの方で歌ったり踊ったりしている。そして現在、NEWSは有名なグループの1つとして、している。そんな「影」も「光」も経験してきた彼だからこそ書ける芸能界の物語なのだった。

世界はときどき一時停止をしてくれる。でも芸能界は違う。再生か、停止か、それしかない。
ここに書いてある「芸能界」には脚色が施してあるらしい。それでも、「ピンクとグレー」を読んで、普段テレビに映っていつも完璧な笑顔を届けてくれる人たちの心の奥がちょっとだけ想像できるようになった。

この世に存在するすべての仕事がどこかで必要とされていることなんだな。同じように、人間だって…。

ピンクとグレー、その淡く優しい色からは想像出来ないような壮絶なドラマを読んだあと、すこし心のさざ波が凪いで、私はピンクとグレーのマーブルを頭の中に描いてみた。ふしぎな色をしていた。