君の名は。 モノローグの秘密
最高気温21度。
9月の気温や体感温度をわすれていた。
何を着ようかと思って真夏の服に羽織りもので外にでたら、意外と寒くて失敗した今日だった。夏はもう、いよいよおわったんだ。
まだ夏のにおいが少しするころ、いつもの映画の友と共に『君の名は。』を観た。
バスタ新宿、サザンテラスのスターバックス。遠くに見える都庁の光とそのかたち。ちょうど昨晩にいたところだ…美しい声と、音楽と、映像にすぐにひきこまれた。
公開してすぐは新海作品ファンや声優陣のファン、アニメが好きな人たちを中心に話題を呼んでいた。それが今では口コミが口コミを呼び、『君の名は。』は老若男女に愛される作品になっているという。
主人公たちの気持ちに沿うようにやさしく語られるRADWIMPSの音楽。疾走感。びっくりする展開…スクリーンを見つめる人たちを残らず糸守と東京に連れてくる。気付くと視界がぼやけて見えなくなってくる。すごかった。これは、自信をもって人にすすめたくなる。これから仲良くなりたい人にも、いまでも大切な人にも、観てほしい映画だった。
しばらくして、録画してあったEテレの番組『SWITCH インタビュー 達人達』を観た。対談するのは、『君の名は。』の監督・新海誠さんと作家の川上未映子さん。
(川上未映子さんの著書に書いて今までに書いた記事)
新海さんは、『君の名は。』を誰に向かって作ったのか。その問いの答えは、「過去の自分と思春期の人たちへ」。
思春期の少年少女が観たらきっと忘れない夏の思い出になると川上未映子さんは言う。そして、思春期を過ぎた大人にも、『君の名は。』のどこかに自分にとっての懐かしさが必ずあるのに気付く。私にとってそれは、中学生のときによく聴いたRADの楽曲であり、林間学校でクラスメイトと自然いっぱいの香りとともに見上げた星空であり、もう思い出せないような気持ちだって含まれる。
田舎で暮らす三葉と都会で暮らす瀧が夢の中で出会ったように、「いつかこれから、まだ出会っていない大事な人に出会えるかもよ」というメッセージも込められているという。
人物もさることながら、人の心情が反映されているような背景の描かれ方が美しかった。新海さんは「昔から雲の絵を描くのが好きだった」と話す。
それから、物語を盛り上げていた三葉と瀧それぞれの「モノローグ」。私には逆にそれは、気恥ずかしく聞こえた。この気恥ずかしさはどこからくるのかが疑問でもあった。
そして新海さんはそれこそ、モノローグにこだわりをもって映画を作っているのだと番組で話している。『君の名は。』ではモノローグによって観客を思春期に誘う。新海さんはモノローグを「詩のような、音楽のようなもの」とし、「北の国からがすごく好きで、そこで使われていたモノローグに影響を受けている」のだという。
私にとってモノローグが気恥ずかしいと思ったのはきっと、同じくらい叫びだしたくなるようないつかの日を思い出したからかもしれない。
普通の高校生映画を見た時のような「もう戻れないあの日感」はあんまり感じなかった。きっとスクリーンに足を運んだ人のその後にも、こだわり抜かれた監督の「光」がさしている。いつまでも余韻に浸りたくなるような、美しい映画を久しぶりに観た。