「東京物語」
日本に帰ってきたら観たい映画があった。
年度はじめとともに開幕する
「午前十時の映画祭」。
今回の映画祭がもうじき終わるけれど、
最後に観ておきたい作品があった。
「東京物語」である。
日本映画を代表する傑作の1本。巨匠・小津安二郎監督が、戦後変わりつつある家族の関係をテーマに人間の生と死までをも見つめた深淵なドラマ。故郷の尾道から20年ぶりに東京へ出てきた老夫婦。成人した子どもたちの家を訪ねるが、みなそれぞれの生活に精一杯だった。唯一、戦死した次男の未亡人だけが皮肉にも優しい心遣いを示すのだった……。(all cinema online より)
「午前十時の映画祭」は開幕前、
今頃の時期に次回のラインナップが発表される
映画祭のラインナップが発表されたころには
まだ生きていらっしゃった。
昨年の9月に亡くなったばかりだった。
モノクロの映画だから、白黒の濃淡で
描いてある映像の世界の中は
本当はどんな色をしているのか
想像しながら観る楽しみがある。
おじいさんとおばあさんが
(といってもまだ70歳にならないくらい)
広島から東京へ、子どもたちに会いにゆく。
今と違って夜行列車に揺られるのは大変だ。
混み合っていて、時間もかかるのだ。
「忙しいなか、ありがとうねえ」
「まあまあ、お気になさらずに」
ゆったりとした口調で物語が進んでゆく。
「夫は外、妻は家」のうちもあれば
「未亡人となり働きに出る女」のうちもある。
それが戦後らしいものだった。
親と子はいつしか、
離れていかなければならないもの…
でもそれはさびしいこと…
時代の流れに取り残されつつある
古い家屋や和服、風習…
現代もそうかもしれないけれど、
戦後もあまりに多くのことが渦巻いていた。
家族のつながりと、自分の人生とを
見つめていかなければならないとき。
若いものはどうしようかと戸惑い、
人生をよりながく生きた者は落ち着いている。
静かな作品ながら、
心にじんと響くものがある。
名画として残る理由がわかる。
主演の原節子さんにどこか見覚えがあった。
着物を着ていること、そして目元の
はっきりしたところが
祖母のお母さんによく似ていたような気がした
祖母のお母さんは昔の人なので
写真だけしか見たことがない。
映画のなかの原節子さんと同じ時代を
生きた人、だと思う。
美輪明宏さんの本に
「美しくなりたければ、往年の女優の
仕草や物言いを参考にするとよい」とある。
たしかに、と思えた。
映画では日々の生活の
忙しさにかまけているからなのか
それともそれが日本の本来の普通なのか
どちらかはわからないけれど、
「ちょっと無神経なんじゃないの」と
思うような会話がいくつか見られた。
原節子さん演じる「紀子さん」や
老夫婦とともに住む若者「京子さん」は
そのとげとげしさを包み込むような
優しさを持っている。
これから人生を生き進めていくうちに
いろいろなことがあると思うけれど、
それが物言いに表れるだろうか。
東京物語…
週末を過ごした東京から帰ってきたばかりで
ちょうどタイムリーに楽しむことができた
作品だった。