江口寿史さんに似顔絵を描いてもらいました【後編】

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(前回のあらすじ)

 

14歳になりたての時、ひょんなことから

江口寿史さんの描く絵に出会う。

それはある小説の表紙だった。

江口寿史さんの描く女の子がとても魅力的で

有名人の似顔絵がいくつか描いてあるのを見て

「私もいつか似顔絵を描いてもらえたら

幸せだろうな」と思っていたところ、

なんと2017年の1月半ばに新潟で開かれる

江口さんの展覧会の初日に

似顔絵イベントが開催されることを知る。

応募して抽選の結果はなんと当選。

イベントが開催される1月14日まで

体調を崩さないことを誓う。

 

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新聞に載った1週間分の天気予報を見て

私は思わずため息をついた。

「いや〜なんだよこれ…雪ばっかり」

成人式の日はあんなに晴れてたのに!

江口さんは果たして無事新潟に来られるのな?

遠方から見に来る人も大丈夫なのかな?

そして私は寒すぎて体調くずさないかな?

なんて、心配ごとが一気に増えた。

 

14日までの1週間は、正月太りも気にせず

スタミナをつけようと積極的にラーメンを食べ

夕食は鍋料理を食べ、日本酒を飲んだ。

あたたかい風呂に入り、無理せず休んだ。

 

でも、最後の最後、ヨガの映画を観に行った後

どうしても身体を伸ばしたいと思って

その日寝る前にうろ覚えの「ハトのポーズ」

を実践してから眠ったら、翌日目覚めたとき

ものすごい背中の痛みに襲われた。

それが13日だった。

「いきなり無理をするもんじゃないよ」

と家族に笑われてしまうのだった。

13日からセンター試験の開催に伴って

大学では「センター休み」に入った。

そんな中でもドンドン雪は積もってゆく。

 

14日がやってきた。起きてまず、

背中の痛みがマシになったこと、

目がものもらいになっていなかったこと、

そして健康全般に感謝した。

センター休み明けが締め切りの課題や

やるべきこともあったんだけど、

そりゃなかなか手に付かないものだ。

 

江口寿史展の会場になっていた

万代へはバスで向かった。

屋根の上にどっさり雪を乗せ、つららを下げ

あまりの寒さに後ろのドアがあきづらいバス。

こんな日は車通りも少なく、

雪は残り、道路は依然として

アスファルトが見えない白色。

そんな中でも仕事を淡々とする

バスの運転手がかっこいいので

私はシン・ゴジラのサントラを聴きながら

バスに乗っていたのだった。

 

イベントが開催される13時より余裕を持って

入場して、まずは展覧会を楽しんだ。

イラストレーターとしての江口さんの作品は

雑誌の表紙や広告イラストがたくさん。

「高一コース」なんかの雑誌の表紙イラストの

描かれた年代を見てみると、これはきっと

両親がちょうど手にとってた頃かも。

MOREの特集のイラストに大学のパンフレット

農協のポスター、デニーズのメニュー。

実にさまざまな印刷物や広告を

江口さんの作品は飾っていたのだ。

展覧会を見て「うわぁ懐かしい」と思える

時代に生まれていたかったと悔やむこと少し。

 

漫画の原画もたくさん展示されていた。

壁にずらりと順番に並んでいたので

読んだことがなかった作品も楽しめた。

私の好きな「ひばりくん」もいた。

ひばりくんが夏休みにタワレコの袋を持って

歩いているとナンパされるシーンがあって、

それが巻頭ページカラー!みたいな感じで

描かれて好きだった。

ひばりくんがアロハシャツを着て

麦わら帽子をかぶり、ズボンに手を突っ込んで

歩いてるのが夏らしくていいのだ。

そこも展示されていたので嬉しかった!

 

会場を二周はしたけれど、開催中に

もう一回来ようと心にきめたのだった。

 

受付の時間になって、抽選で選ばれた15名も

さらに抽選して順番を決めることになった。

遠方から来た人は帰りの時間もあるから

優先するということで私は普通にクジを引く。

あんなにひどい雪の中だったのに、

全員と思われる人が

ズラリと並んでクジを引いた。

みんな江口さんに会うのを楽しみに

して来たんだな、としみじみする。

私はちょうど真ん中くらいの番号だった。

 

子どもから大人、男性女性、

東京から来た人に故郷が新潟の人、

さまざまな人が描かれてゆくのを見ていた。

その人の特徴によって、耳だったり

髪だったりと描き始めの場所は異なる。

会場となっていた「アニメ・マンガ情報館」の

方の司会と、江口さんと、

前に展覧会が開かれた京都の会場の方も

駆けつけてきて皆さんのマイク越しの

おしゃべりを聴きながらだったのもあり

(ラジオを聴いてるみたいだった)

順番が来るまで楽しく似顔絵を見ていた。

 

意外と早く私の順番がやってきた。

「よろしくお願いします」と言って、

江口さんの向かっている机越しの

椅子に腰かけた。

 

大人の方の似顔絵は見ていたぶんだけでも

皆どちらか斜めを向き、伏し目がちに

描かれていたので私もきっとそうだろうなと

思っていたのだけれど、(口も閉じてる)

「正面で書こう。目はこっちね」と言われて

予想していなかった向きになった。

や〜これは緊張するぞ!汗をかく。

 

女性は輪郭が柔らかい、ということで

私の丸い輪郭から描いてもらっていたようだ。

他の人は斜めを向いていたため

目線の先に観に来た人にもペン先が見えるよう

カメラで手元が写された画面が

用意されてたのを見ることが出来ただろう。

でも私は江口さんを見ていたため、

たまーに手元をチラ見をする程度だった。

 

江口さんはまるで占い師のように

人の顔を見ただけでその人の性格や

仕事なんかを想像してしまう。

私はどんな風に見えるのかが

密かに楽しみだった。

だから、「学生さんかな?」と聞かれて

「はい、まさに!」と嬉しくなった。

その後、新潟の日本酒の話で盛り上がった。

 

その時に笑った顔が良かったようで、

「よし!笑顔でいこう。

口元描くからしばらくそのままでね」

ということになり、私はニヤニヤしていた。

「口元は似せようと思ってシワとかを

たくさん描くと、逆に似なくなるんですよ」

という話を聞いていた。

線を少なくすることで逆にその人の

チャームポイントとして、

似せることができるのだという。

 

その後、パーマをかけた髪の毛や

服装(ズボンまで描いてくださった!)も

丁寧に描いてもらい、とうとう完成。

緊張していたけれど、江口さんの絵に

出会ったきっかけや、思っていることも

伝えることが出来て本当に良かった。

 

手渡されたスケッチブックの1ページには

確かに私がいて、微笑んでいた。

凛とした、というよりもどちらかというと

ふわっと丸い感じのする雰囲気も

江口さんは的確に表現してくださったのだ。

お礼と感想を言って、握手した。

「夢が叶いました!」と伝えることも出来た。

 

完成した絵を見てしばらく

ちゃんと呼吸が出来ず、

思わずスタバに駆け込んで

空気の代わりにカプチーノを吸って帰宅した。

 

正面、前を見つめて、笑顔。

これは実は私の苦手な向きだった。

写真を撮るときも避けてしまうポーズだった。

特に口元なんて、今まで不用意に笑うと

なんだか歪んでしまって嫌なパーツだった。

でも、江口さんがそのポーズに

向き合ってくれて、素敵に絵にして

くださったおかげでこんな自分の顔も

何だか前より好きになった気がした。

 

なるべくこれからも、笑っていようと思った。

 

物販コーナーに、今日まで

ツイッターのアイコンにしていた絵の

ポストカードを発見したので購入した。

そしてアイコンは私の似顔絵に変更した。

 

イベントが始まるまでは、周りにいる人にも

緊張して話しかけられなかったけれど、

終わったあと「よかったですね」と

何人かに話しかけられて、

江口さんの作品についての話が弾んだ。

他に似顔絵を描いてもらっていた人々も、

ずっと夢だったことが叶ったようで

本当に嬉しそうだった。

外の天気を忘れそうな幸せな気分だった。

 

家族に似顔絵を見せながら、

今日のお土産話をして楽しんだ。

父はひばりくんも好きだし、

江口さんのマンガ本も持っているので

(最近それを知った。もっと早く

話してればよかったな〜〜)

似顔絵を写真に撮って喜んでいた。

その晩の団欒で飲んだ日本酒が

とっても美味しかったことは言うまでもない。

 

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宝物がひとつ、増えた。

この気持ちを忘れないように、

こうしてブログに書きとめておこう。