「阿形順正」の検索結果
すてきな名前だなぁと思ったのだ。
まっすぐそうな人生を歩んでいきそうなところが想像できるようなきれいな名前だと思った。
の、主人公「あおい」の忘れられない男性の名前がそれだったのだ。
時に検索能力では、twitterのほうがgoogle上回るのではないかと思う。例えばサッカーの中継を観てるときにgoogleでチーム名を検索すると出てくるのはWikipediaやオフィシャルサイトだと思うが、twitterでチーム名を検索すればスタジアムの観客の熱気に似た感覚を文字によって味わえるのだ。
だから、なんとなく、私のほかにも阿形順正に惹かれた人がいないかとtwitterで調べてみた。
検索結果がありません、だった。
twitterの仕様は日々変化し、最新版ではあまり昔のつぶやきまで検索出来ないようになっていたり、お気に入りも遡って全て見ることが出来なくなっていたりする。だから厳密に言うと「zero results」ではないのかも。でもちょっぴりさみしかった。
江國香織さんの本が読みたい気分だった。
夕方のお風呂は、自分がきちんとした社会生活をしていないことを思い知らされるので好きだ。
扉窓のあいた小さなベランダごしに、カスタード色の月がでている。
ジュエリーが売れるとき、(中略)私はまずそのひとの部屋を想像する。ジュエリーのしまわれる場所を想像する。それから、そのひとが鏡の前に立ち、ジュエリーをつけるところを想像する。特別なときだけにつけるのだろうか。肌の一部みたいにいつもつけているのだろうか。旅行には持っていくのだろうか。
「変わらないというのは一つの魅力よ」「変わるのもね」
ここで生まれ、長い生涯をずっとここで暮らし、おそらくはここで終えるのであろうフェデリカやジーナに選択の余地がないということの苛酷さとやすらかさに、私はときどきとても憧れる。
何もしないでいることの悪い点は、記憶がうしろに流れないことだ。
バラは、部屋の静寂を深めるだけじゃなく、部屋の温度をすこし下げる、と思った。それにたぶん、一人ずつの孤独を際立たせる。
帰る場所、人は一体いつ、どんなふうにして、それをみつけるのだろう。眠れない夜、私は、人恋しさと愛情とを混同してしまわないように、細心の注意を払って物事を考えなければならない。どうだろう。
「あおい」の性格や感受性がひしと伝わってきて、癒されたりチクリと針をさされたような気分になる。個人的には、漢字とひらがなの使いかたのバランスも好きだと思った。
「あおい」はイタリアのミラノに、アメリカ人の恋人マーヴと住んでいる。このマーヴという人はどこまでもやさしい人で、(名前の響きもやさしい)ミラノという色彩のあまりないどんよりとした(そういう描写なのだ)街での「あおい」の暮らしに色彩を添えてくれる存在だ。
簡素ながらにこじゃれた暮らしをまるでかつての日本人が朝起きて髪を結ったりお茶をたてたりしたような自然さで、登場人物はイタリアを舞台にやっている。
私はなにかの本を読みかけにして旅に出ることはあまりしないようにしている。発つ前はさっぱりしていたいという、母譲りの習慣なのだと思う。けれど今回はいつまでもイタリアの空気を味わっていたくて、この1冊にしおりを挟んでカバンに詰めてった。
先週末、新宿でイタリア料理を食べた。
本を読み始める前から決まっていた予定だったけれど、うれしかった。
「あおい」とマーヴは仕事の帰りに待ち合わせをして店に寄り、プロシュートを何切れか買って、ワインも買って、家へ帰る。夕方にカフェで紅茶を飲むように、どこかでささやかな乾杯をしてから車を走らせ家へ帰り、夕食をとることだってあった。(読みながら飲酒運転してるじゃん…と思った)
そんな気軽さで好きなものを気ままに選べるお店だった。お腹のなかが居場所を許せばいつまでも食べていたかった。
週末の旅は終わりがくるし、「あおい」の静かな暮らしもいつまでも続くわけではない。本に書かれた時期より前だってそうだったみたいだ。
まだ読んだことのない人のためにそれくらいしか話せないけれど、ゆっくり加速していく物語…まさに冷静と情熱のあいだの物語だった。
もう少し余韻に浸ってから、辻仁成が描いた「Blu」も読んでみたい。
- 作者: 江國香織
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2001/09/25
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