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ジョゼと虎と魚たち

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ジャケ買いがきっかけで『孤独な夜のココア』に出会ってからすっかり、田辺聖子さんの描く女の人の物語が大好きになってしまった。

 

日記を書くとなるとなかなか続かない。でも、ちょっとしたお出かけに本をおともすれば、あとでその本をもう一度開いたときに、はじめてその本を読んだときの場所とか空気とか、そういったものが親しみのこもった思い出のように浮かんでくる。私にとって部屋の隅に積まれた文庫本たちは、日記帳のように少し昔を思い出す大切なヒントだ。

 

『孤独な夜のココア』にもそんな思い出が詰まっている一冊だった。母と旅した夏の松本。うとうとしながら乗ったワイドビューしなのからの景色が未だにやきつく。

 

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『おちくぼ姫』も『源氏物語』も、田辺聖子さんの作品・現代訳した作品はとても気になる存在で、この冬にでも読みたいと思っている。

 

本が好きな友人から、「田辺聖子さんの『ジョゼと虎と魚たち』、ありすちゃんきっと好きだと思うからぜひ読んでほしい」とおすすめしてもらった。

 

 

ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)

ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)

 

 

身体が不自由な「ジョゼ」と男子大学生の不思議な恋の話のほか、チャーミングな女の人が主人公の短編が詰まった一冊だった。

 

白粉(おしろい)がうまく肌にのったり、晴れた日に新調の靴をおろしてはいたり、碾茶(ひきちゃ)ごはんをほめられたりすると、梢はかなりそれだけで人生が満たされた気がする。

 

宇禰は仕事にも車を使うので、ふだんからその小さい赤い車には、穿きかえの靴や、ちょっとひっかけるセーターなど入れている。もうかなり長く乗っているが、馴れた車で、宇禰はひそかにこの車を、「私のオルゴール」と呼んでいた。オルゴールの函ほどに小さいが、この密室にいる時間も好きだった。

 

(不機嫌というのは、男と女が共に棲んでいる場合、ひとつっきりしかない椅子なのよ……)(どっちか先にそこに坐ってしまったら、あとは立っていなければならない椅子とり遊び。自分が坐っちゃいけないのよ)

 

主人公たちの見かけはどうであれ、様々であるけれど、ああもう少し歳を重ねたらこういう人になりたいな、こういう考え方をしたいと思わせてしまう人たちだ。

 

そして、表題作「ジョゼと虎と魚たち

 

「夢に見そうに怖い……」「そんなに怖いのやったら、何で見たいねん」「一ばん怖いものを見たかったんや。好きな男の人が出来たときに。怖うてもすがれるから。……そんな人が出来たら虎見たい、と思てた。もし出来へんかったら一生、ほんものの虎は見られへん。それでもしょうないと思うてたんや」

 

ジョゼはそのままでいいと思っている。長いことかかって料理をつくり、上手に味付けをして恒夫に食べさせ、ゆっくりと洗濯をして恒夫を身ぎれいに世話したりする。お金を大事に貯め、一年に一ぺんこんな旅に出る。

 

ジョゼの名前はどこから来たのか、ジョゼと恒夫(男子大学生)の「こんな旅」ってどんな旅なのか。これは、ぜひ読んで確かめてもらいたい。

 

そうそう、この関西弁や。

 

田辺聖子さんの作品は大阪弁も京都弁も巧みで、登場人物たちが繰り広げる会話が小気味よいのだ。たとえその会話の内容が不倫であっても、ハイ・ミスとしてこれからも生きる将来を悟る言葉であっても。

 

だから銀行の窓口で、「山武羅紗(やまたけらしゃ)さあん」と呼ばれて「ハイ」と立ってゆく似和子を見るかぎり、「夢のように日が過ぎた」楽しみを、コックリと味わっている人生の中身は、誰にも分らないのであった。

 

 『孤独な夜のココア』にも『ジョゼと虎と魚たち』にも、どちらかというと描かれているのは男の人のカッコいいところ、頼れるところでなく、弱さを見せるところや甘えてくるところだ。田辺聖子さんはそういうところを可愛らしいと思って、ほなそう書いたろと思って書いているのかしら。同じく田辺聖子さんによって書かれる女の人たちも本当は弱いところもあるのだけれど、毅然として相手との関係を大切にしたり、誰にも見えないところで人生を充実させようときっぱりしているところがすてきだ。

 

表題作「ジョゼと虎と魚たち」は映画にもなっているという。そこには先月行われた、私が通う大学の学園祭にも来ていたらしい(!)、新井浩文さんが出ている。今楽しんで観ているドラマ「校閲ガール」でバリバリ仕事をこなす江口のりこさんも。「怒り」に出ていた池脇千鶴さん、妻夫木聡さん。上野樹里さん。

 

「キャストも豪華だし、ちょっと前の映画だけどきっと面白いからぜひ観てみて!」と友人が言っていた。あの短編が映像化されたらどうなるのか、原作を読んでみてとても気になる。近いうちに観てみたいと思う。

 

読書週間はまだまだ終わらない。

 

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