江口寿史さんに似顔絵を描いてもらいました【後編】

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(前回のあらすじ)

 

14歳になりたての時、ひょんなことから

江口寿史さんの描く絵に出会う。

それはある小説の表紙だった。

江口寿史さんの描く女の子がとても魅力的で

有名人の似顔絵がいくつか描いてあるのを見て

「私もいつか似顔絵を描いてもらえたら

幸せだろうな」と思っていたところ、

なんと2017年の1月半ばに新潟で開かれる

江口さんの展覧会の初日に

似顔絵イベントが開催されることを知る。

応募して抽選の結果はなんと当選。

イベントが開催される1月14日まで

体調を崩さないことを誓う。

 

---------------

 

新聞に載った1週間分の天気予報を見て

私は思わずため息をついた。

「いや〜なんだよこれ…雪ばっかり」

成人式の日はあんなに晴れてたのに!

江口さんは果たして無事新潟に来られるのな?

遠方から見に来る人も大丈夫なのかな?

そして私は寒すぎて体調くずさないかな?

なんて、心配ごとが一気に増えた。

 

14日までの1週間は、正月太りも気にせず

スタミナをつけようと積極的にラーメンを食べ

夕食は鍋料理を食べ、日本酒を飲んだ。

あたたかい風呂に入り、無理せず休んだ。

 

でも、最後の最後、ヨガの映画を観に行った後

どうしても身体を伸ばしたいと思って

その日寝る前にうろ覚えの「ハトのポーズ」

を実践してから眠ったら、翌日目覚めたとき

ものすごい背中の痛みに襲われた。

それが13日だった。

「いきなり無理をするもんじゃないよ」

と家族に笑われてしまうのだった。

13日からセンター試験の開催に伴って

大学では「センター休み」に入った。

そんな中でもドンドン雪は積もってゆく。

 

14日がやってきた。起きてまず、

背中の痛みがマシになったこと、

目がものもらいになっていなかったこと、

そして健康全般に感謝した。

センター休み明けが締め切りの課題や

やるべきこともあったんだけど、

そりゃなかなか手に付かないものだ。

 

江口寿史展の会場になっていた

万代へはバスで向かった。

屋根の上にどっさり雪を乗せ、つららを下げ

あまりの寒さに後ろのドアがあきづらいバス。

こんな日は車通りも少なく、

雪は残り、道路は依然として

アスファルトが見えない白色。

そんな中でも仕事を淡々とする

バスの運転手がかっこいいので

私はシン・ゴジラのサントラを聴きながら

バスに乗っていたのだった。

 

イベントが開催される13時より余裕を持って

入場して、まずは展覧会を楽しんだ。

イラストレーターとしての江口さんの作品は

雑誌の表紙や広告イラストがたくさん。

「高一コース」なんかの雑誌の表紙イラストの

描かれた年代を見てみると、これはきっと

両親がちょうど手にとってた頃かも。

MOREの特集のイラストに大学のパンフレット

農協のポスター、デニーズのメニュー。

実にさまざまな印刷物や広告を

江口さんの作品は飾っていたのだ。

展覧会を見て「うわぁ懐かしい」と思える

時代に生まれていたかったと悔やむこと少し。

 

漫画の原画もたくさん展示されていた。

壁にずらりと順番に並んでいたので

読んだことがなかった作品も楽しめた。

私の好きな「ひばりくん」もいた。

ひばりくんが夏休みにタワレコの袋を持って

歩いているとナンパされるシーンがあって、

それが巻頭ページカラー!みたいな感じで

描かれて好きだった。

ひばりくんがアロハシャツを着て

麦わら帽子をかぶり、ズボンに手を突っ込んで

歩いてるのが夏らしくていいのだ。

そこも展示されていたので嬉しかった!

 

会場を二周はしたけれど、開催中に

もう一回来ようと心にきめたのだった。

 

受付の時間になって、抽選で選ばれた15名も

さらに抽選して順番を決めることになった。

遠方から来た人は帰りの時間もあるから

優先するということで私は普通にクジを引く。

あんなにひどい雪の中だったのに、

全員と思われる人が

ズラリと並んでクジを引いた。

みんな江口さんに会うのを楽しみに

して来たんだな、としみじみする。

私はちょうど真ん中くらいの番号だった。

 

子どもから大人、男性女性、

東京から来た人に故郷が新潟の人、

さまざまな人が描かれてゆくのを見ていた。

その人の特徴によって、耳だったり

髪だったりと描き始めの場所は異なる。

会場となっていた「アニメ・マンガ情報館」の

方の司会と、江口さんと、

前に展覧会が開かれた京都の会場の方も

駆けつけてきて皆さんのマイク越しの

おしゃべりを聴きながらだったのもあり

(ラジオを聴いてるみたいだった)

順番が来るまで楽しく似顔絵を見ていた。

 

意外と早く私の順番がやってきた。

「よろしくお願いします」と言って、

江口さんの向かっている机越しの

椅子に腰かけた。

 

大人の方の似顔絵は見ていたぶんだけでも

皆どちらか斜めを向き、伏し目がちに

描かれていたので私もきっとそうだろうなと

思っていたのだけれど、(口も閉じてる)

「正面で書こう。目はこっちね」と言われて

予想していなかった向きになった。

や〜これは緊張するぞ!汗をかく。

 

女性は輪郭が柔らかい、ということで

私の丸い輪郭から描いてもらっていたようだ。

他の人は斜めを向いていたため

目線の先に観に来た人にもペン先が見えるよう

カメラで手元が写された画面が

用意されてたのを見ることが出来ただろう。

でも私は江口さんを見ていたため、

たまーに手元をチラ見をする程度だった。

 

江口さんはまるで占い師のように

人の顔を見ただけでその人の性格や

仕事なんかを想像してしまう。

私はどんな風に見えるのかが

密かに楽しみだった。

だから、「学生さんかな?」と聞かれて

「はい、まさに!」と嬉しくなった。

その後、新潟の日本酒の話で盛り上がった。

 

その時に笑った顔が良かったようで、

「よし!笑顔でいこう。

口元描くからしばらくそのままでね」

ということになり、私はニヤニヤしていた。

「口元は似せようと思ってシワとかを

たくさん描くと、逆に似なくなるんですよ」

という話を聞いていた。

線を少なくすることで逆にその人の

チャームポイントとして、

似せることができるのだという。

 

その後、パーマをかけた髪の毛や

服装(ズボンまで描いてくださった!)も

丁寧に描いてもらい、とうとう完成。

緊張していたけれど、江口さんの絵に

出会ったきっかけや、思っていることも

伝えることが出来て本当に良かった。

 

手渡されたスケッチブックの1ページには

確かに私がいて、微笑んでいた。

凛とした、というよりもどちらかというと

ふわっと丸い感じのする雰囲気も

江口さんは的確に表現してくださったのだ。

お礼と感想を言って、握手した。

「夢が叶いました!」と伝えることも出来た。

 

完成した絵を見てしばらく

ちゃんと呼吸が出来ず、

思わずスタバに駆け込んで

空気の代わりにカプチーノを吸って帰宅した。

 

正面、前を見つめて、笑顔。

これは実は私の苦手な向きだった。

写真を撮るときも避けてしまうポーズだった。

特に口元なんて、今まで不用意に笑うと

なんだか歪んでしまって嫌なパーツだった。

でも、江口さんがそのポーズに

向き合ってくれて、素敵に絵にして

くださったおかげでこんな自分の顔も

何だか前より好きになった気がした。

 

なるべくこれからも、笑っていようと思った。

 

物販コーナーに、今日まで

ツイッターのアイコンにしていた絵の

ポストカードを発見したので購入した。

そしてアイコンは私の似顔絵に変更した。

 

イベントが始まるまでは、周りにいる人にも

緊張して話しかけられなかったけれど、

終わったあと「よかったですね」と

何人かに話しかけられて、

江口さんの作品についての話が弾んだ。

他に似顔絵を描いてもらっていた人々も、

ずっと夢だったことが叶ったようで

本当に嬉しそうだった。

外の天気を忘れそうな幸せな気分だった。

 

家族に似顔絵を見せながら、

今日のお土産話をして楽しんだ。

父はひばりくんも好きだし、

江口さんのマンガ本も持っているので

(最近それを知った。もっと早く

話してればよかったな〜〜)

似顔絵を写真に撮って喜んでいた。

その晩の団欒で飲んだ日本酒が

とっても美味しかったことは言うまでもない。

 

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宝物がひとつ、増えた。

この気持ちを忘れないように、

こうしてブログに書きとめておこう。

江口寿史さんに似顔絵を描いてもらいました【前編】

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当時、愛読していた中学生雑誌には毎月

モデルおすすめのCDや本が紹介されてる

興味深いページがあった。

1人、どこか周りより大人びたモデルがいて

彼女が紹介していた本に目がとまった。

(今考えるとそのモデルは銀杏BOYZ

特別好きだったから、それ経由で

紹介していたんだろうなと思っている)

 

グミ・チョコレート・パイン

 

タイトルも聞いたことがないし、

著者の大槻ケンヂさんの名前は

ギリギリ聞いたことがあるけど、

何より14歳になりたての私の目をひいたのは

表紙に描かれた女の子の絵だった。

それはもう、8年も前の話だけれど…。

 

早速書店で『グミチョコ』を購入して

中学の「朝読書」の時間に読んだ。

そこで私は今まで少女漫画で観て

親しんできたウキウキな高校生活と

まったく違う高校生活を垣間見てしまった。

主人公は少女漫画で見た王子様のような

キラキラな男子高校生ではなくて、

とても冴えなーい大橋賢三君だった。

 

でも、舞台は30年近く前の高校だ。

こんなに冴えなーいわけないよ…なんて

期待しながら彼の高校生活を覗くことにした。

結果、面白くて「グミ編」読了後

「チョコ編」「パイン編」も読んだ。

ただ、ただのかわいい女の子の表紙だった

「グミ編」と違って、あとの2冊の表紙は

なかなか刺激的な絵だったため、

中学校の「朝読書」には向かないと思って

しっかりカバーをかけて読んだ。

漫画をこっそり読んだり眠ったりしてないか

見守りにくる先生が通ったときは

カバーをしっかり握りしめた。

いやあ、当時のことを書くと笑っちゃうな。

 

学校では誰にも見せないように隠していたけど

相変わらず女の子の表情とか線が良くて

「表紙カバーイラスト・江口寿史

という文字を見つけて、

「このすてきな絵を描く人はこういう名前か」

ふむふむ、と頷いているのだった。

 

結局『グミチョコ』はその後も私にとって

何度も読み直すシリーズになった。

高3で受験生の時、

「大橋賢三君、いいやつだな」

と思うようにもなった。

賢三が憧れている山口美甘子も大好きだ。

 

時は流れ、2016年の暮れ。

大学の研究室で管理しているツイッター

久しぶりに見ていたら、誰かのリツイート

江口寿史展 新潟で開催のお知らせ」

が回ってきたのを発見した。

 

夏休みに「kindleunlimited」で

『ストップ!!ひばりくん!』を読んでいた。

それを読んでやっぱり、

江口寿史さんの描く女の子(?!)は

素敵だなと、すっかりはまってしまう。

もっと絵を見たくてネットを見てみると

広瀬アリス・すず姉妹やPerfume

あまちゃん」の2人など、

実在する有名人の似顔絵も見つかった。

「江口さんに似顔絵を描いてもらえるなんて

めっちゃ幸せじゃん…いいな…」と思った。

そして私もいつか描いてもらいたいな、とも。

だから2017年の夢リストにも書く気でいた。

 

新潟で開催される展覧会にぜひ

時間作って見に行こうと思って

詳細を見ようと会場のページに飛ぶと、

似顔絵イベントが開催されることを知った。

 

1月14日というのはセンター試験

大学は連休になる。

どこかへ行こうかななんて思って

数日滞在できる余裕をあけていたから

ちょうど日程もばっちり。

抽選15名か…ま、送ってみるだけね…

と、手順に従って応募を確実にした。

 

私は抽選にはあまり縁がない。

大学に入って抽選で取れる科目は

今のセメスターでひとつ取れたもの以外

全て通らなかったから、運が悪いと思う。

最後に抽選が当たったと思う記憶は

小学校4年か5年生の時に雑誌で見て応募した

パリスキッズかサン宝石

ブレスレットだったと思う。

 

だから、あんまり期待しないようにした。

ただ、江口さんに似顔絵を描いてもらうことは

いつかきっと叶えたい夢だったから、

描いてもらえることになったら

どんな服を着て行こうかな…

寝癖は直さないとだめだよね…なんて

楽しい考えごとはけっこうしていた。

そして、夢リストにも

「かなわなかったら後で消せばいいんだ」

なんて思って、気軽に書いておいた。

江口寿史さんに似顔絵を描いてもらう」と。

 

年が明けて、抽選結果発表の日が近づく。

帰省した友人とプリクラを撮って

プリ機からiPhoneに気に入った一枚を

送信して、画像を見ていたら通知が来た。

「【抽選結果のお知らせ】」の文字を見て

すっかり緊張してしまうのだった。

当選という文字を見て、思わず隣にいた友人を

バンバン叩いてしまったと思う。

 

そして、

「14日まで、絶対体調崩さない!」と誓った。

 

でも、日にちが近づいてきて

1週間先の天気予報が見られるようになると

どうやらものすごい悪天候がやって来る。

楽しみにしていることの前に

突然体調を崩す傾向がある私は身構えた。

 

(続く)

BREATH OF THE GODS

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2017年の初映画は、「シネ・ウインド」で。

 

昨年は数えたら、

新潟市民映画館「シネ・ウインド」で

4本の映画を観ていた。

山口小夜子さんのドキュメンタリーに

フランス語の授業ですすめられた

『最高の花婿』に、

ファストファッションの仕組みがわかる

『ザ・トゥルー・コスト』、

そして先月観た『黒い暴動♡』。

先月、「シネ・ウインド」で予告編を

観た時点で「2017年も沢山観るだろう」

ということを直感した。

 

だから今年は会員になって

「シネ・ウインド」の映画を楽しむことに。

 

会員証を作ってもらって、そのまま

観た映画は『聖なる呼吸』。

副題に『ヨガのルーツに出会う旅』、

原題は『breath of the gods』。

 

妻がヨガにハマって、ヨガに興味を持った

ドイツ人の監督 ヤン・シュミット=ガレ。

ヨガの起源を知るために南インドを旅する。

 

今でこそ「ヨガ」というと

誰もが「ああヨガね、知っているよ」と言う。

でも、20世紀初頭のインドでヨガの存在は

それほど知られているものではなかった。

年配者や僧侶がするものでマイナーだった。

曲芸のようだ、という偏見もあった。

 

映画では“近代ヨガの父”と呼ばれる

故・クリシュナマチャリアという人を中心に

クリシュナマチャリアの弟子や子供たちを

取材して、ヨガの起源にせまっていた。

 

ヨガのポーズひとつひとつは

アーサナと呼ばれている。

アーサナをひとつ完璧に覚えたら

次のアーサナを教わることができる…

そうやって弟子たちは学んできたという。

私は幼い頃のピアノのレッスンを思い出した。

 

ヨガは身体の一部分でなく、

呼吸から始まって身体の細部に至るまで

余すことなく使ってするものだ。

身体全体を生き生きとさせることに

私はまた、クラシックバレエを思い出した。

 

ヨガの歴史を紐解いてみると、

クリシュナマチャリアは1888年から

1989年まで生きていたし、その弟子たちも

長生きしていることが分かった。

 

ヨガに「痩せるためにするものだ」

というイメージをもつ人も多いだろう。

確かに映画に出てくる案内役の

ヨガ講師もスラリとしていたし、

クリシュナマチャリアは小食だった。

でもヨガは、身体を浄化し心を整え、

集中力を高めるはたらきがある。

それが結果的に痩せることにも繋がるけれど

もっと深みのある存在であることを知った。

確かに腕で支えて頭で立つアーサナ

集中力がなくては出来るものでない。

 

一部の人にしか知られていなかったヨガ。

クリシュナマチャリアが、

マイソール王国の君主に雇われて

ヨガは身体能力を高めることだと教えたり

インドの大学で哲学と並んで

ヨガの科目を実践したことでその存在が

広まっていったという。

 

宗教の種類は関係なくただ、

魂の在りどころを探るというヨガ。

そして自分の思想を人に押しつけることの

なかったクリシュナマチャリア。

彼の心がけや弟子への受け継ぎ方が功を奏し

今こうしてヨガが多くの人に

親しまれているのだということがわかった。

 

私はヨガといったらハトのポーズを

するのがやっとだし、

以前興味を持って図書館で本を借りて

読んだ時に「なんか複雑…」という

感想を抱いたけれど、こうして映像で

観てみることによってよく分かった。

知れば知るほど奥深いヨガだけれど、

これをいつもの生活に取り入れることが 

出来たらもっと生き生き暮らせそうだ。

 

そして映画を彩るBGMがよかった。

ドビュッシーラフマニノフ

リムスキーコルサコフ…ソラブジも。

最初はもっとインドっぽい曲にしないの?

と不思議な気持ちで聴いていたけれど、

映画が進むにつれてしっくりきた。

 

ヨガをやっている人にはもちろん、

1年のはじめに観る映画としても

いい作品だと思った。

 

 

さて、「シネ・ウインド」の会員になると

その場で無料鑑賞券が1枚もらえる。

私はさっそくそれを使用したけれど、

そのほかにも割引価格で映画を観ることができ

毎月シネ・ウインドで上映する作品や

市民の映画生活がわかるマガジン

「月刊ウインド」が送られてくる。

館内の資料や本の貸し出しもあるそうだ。

これで新しい映画の世界が広がってきそう。

今年の夢リストはこれでひとつクリアだ。

『おちくぼ姫』

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そのおもしろさを、

わたしと筆がうまくお伝えできると

いいのですがーーー。

 

というまえ書きがむすばれ、物語が始まる。

 

田辺聖子 著 『おちくぼ姫』

 

千年前のシンデレラ物語として今に残る

落窪物語』を、田辺聖子さんが

やさしく現代訳してアレンジした作品だ。

 

『孤独な夜のココア』や

ジョゼと虎と魚たち』を昨年読み

田辺さん独特のやさしい表現や

ほろりとした関西弁の言い回しに

私はすっかり惹かれてしまって、

今年初めての買い物にこの本を選んだ。

 

日本の古典のシンデレラ、ということで

継母に虐げられて暮らす主人公おちくぼと

王子さま(貴族)が出会い、

恋をする…という大筋はお馴染み。

主人公を虐げる継母の醜さと、

その虐め方の滑稽さもそのままだ。

 

ディズニーアニメ映画のシンデレラでは

毎朝早く起きててきぱき働くシンデレラに

エプロンをつけてあげたり、

シンデレラから朝食のおこぼれをもらったり

シンデレラと仲良しの小鳥やねずみがいる。

『おちくぼ姫』でのその役割は、

おちくぼ姫の世話をする女・阿漕が担う。

阿漕の仲睦まじい結婚相手・帯刀もまた

阿漕をたすけ、おちくぼ姫を支える。

 

シンデレラのひみつ - 謎の国のありす

 

以前この記事でシンデレラの

「舞踏会に行きたいけれどドレスがない」

と言う言葉は彼女の自信の表れだ、

という本からの引用を載せた。

ここに、おちくぼ姫との違いを見た。

おちくぼ姫は何かと自分を下に見て、

阿漕に向かって自分を卑下する言動がある。

でもこれは日本風な奥ゆかしさとして

捉えることもできるな…と考えながら読んだ。

どんなに継母・北の方に辛く当たられても

清貧な暮らしをしている。

髪の毛は当時の美人の象徴である

黒く艶のある長い長い髪を保っている。

言葉には出さぬとも、誰に見せるでもなく

自分を美しく保とうとする姿勢も

実は自信の表れかもしれないし。

 

田辺聖子さんの綴り方では、

古典に馴染みのない若者向けに

当時の屋敷の間取りや結婚のしきたりに

ついて、本文中に説明がある。

だから前より少し当時のことに詳しくなれた。

また、歌のやりとりの現代訳も美しくて

読んでいてうっとりしてしまう。

これを中学生か高校生の時に読んでいたら

もっと古典の授業を楽しめたかも…。

 

 

人間のよろこびやかなしみ、

恋や憎しみなどは、

時代がかわってもおんなじなんだよ

 

田辺聖子さんが語りかけてくれる。

 

おちくぼ姫に恋をする少将も、

少将に仕える阿漕の夫の帯刀も、

もちろんおちくぼ姫もみなユーモアがあり

読んでいてすっかり好きになった。

 

でもいちばん「こうなりたい」と

思わせてくれたのは私は阿漕かな。

おちくぼ姫のいちばんの味方であり

機転がきいて女らしさのある人。

『おちくぼ姫』は見方によっては

阿漕のシンデレラストーリーとも言えるかも。

 

年末年始を跨いで読んでいた本を除くと

新年初めて読みはじめた本『おちくぼ姫』

またひとつ、読書の楽しみを教えてもらった。

 

 

alicewithdinah.hatenablog.com

 

 

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おちくぼ姫 (角川文庫)

おちくぼ姫 (角川文庫)

 

 

 

 

p.s.

先述した「シンデレラのひみつ」記事で

紹介した『シンデレラの教え』では

「糠福と米福」という、

東北地方に伝わるストーリーが

紹介されていて、これもいわゆる

日本のシンデレラストーリー。

他にも日本のシンデレラストーリーが

まだまだ見つかるかもしれないと

思うとますます面白い。

とてもベリー最高な夜、その3

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懐かしい人たちと、今年も

集まることができた。

高校生の頃、テスト期間終わりに

カラオケでばか騒ぎしたり、

時には真剣に語り合ったり、

卒業旅行を共にしたり、

20歳になってもけんかしたりした仲間たちと。

 

今年は全員の住んでいるところが

新潟東京大阪LAオレゴン…と

ますますバラバラになってしまって、

新潟に帰省してきた日本の3人と

LAで年越しを一緒に過ごすアメリカの2人

LINE電話をつないでの再会となった。

(時差もかなりあるのでちょっとだけね)

 

8種のビール飲み放題!なんていう

太っ腹なお店だったのにも関わらず、

ビールははじめの1杯のみだった

なんていうちょっと勿体ない私たちだった。

 

新潟に残っている私は

帰省したそれぞれに会えるけれど

東京と大阪となるとなかなか遠くて

2人はちゃんと話すのが久しぶりだった。

初めはお互い少し緊張していたようだけど

一杯目のビールグラスの底が

見えるころになれば、

あの頃の調子が戻ってくる。

 

いつもより思い出話は少なくて、

「いま」の話が特に多かったように思う。

時おり飲んでいるお酒をほめる。

関西弁がうつってきて、愉快な気分になる。

楽しくてたまらんわ…

 

寒空の下、イルミネーションを見ながら

二軒目のお店まで歩いた。

「今から行くとこはお通しがないから、

二次会にぴったりよ!」

なんてちょっとかっこつけてみる。

 

昨年も一昨年も、決まって

再会の時間の終わりが近づくと

なんだか悲しい気持ちになったけれど

今年はきっぱりしたものだった。

高校生だったのももう、3年前になる。

日常を共にしてきた人たちだったから

毎日会えないのはそりゃさみしいけれど

それぞれの大学生活だってもう

残すところあと1年。

 

会えないのは当たり前で、普段は見守って

たまにこうして会えるのがうれしいのだ。

 

今年こそ大阪に行きたいな。

私も!一緒に行こうよ

うちも、ユニバの年パス取らんとあかんな。

 

また、それぞれの1年が始まる。

新しい年の始まりに、

彼女たちに会えてよかった。

 

誰かが画面越し、とかではなくて

5人がリアルに揃えるのはいつだろう。

考え始めても答えは出ないけれど、

いつかその時が来るといいなと夢見ながら

ここで静かに待っている。

 

 

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回顧2016

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 2016年ももうすぐおわり。

今年も大みそかがやってきた。

 

何だかいつになく穏やかな年末を迎え、

銀杏をむいたり1か月ぶりの大掃除に

精を出したりしているところだ。

 

ブログを始めた2014年の漢字は「実」

2015年は「難」だった。

今年は何だろう、「波」にしとこっか。

 

成人式を迎え、また海外に渡り、

久しぶりに家族に叱られた。

今年は大学もアルバイトもよくやったと思う。

春からフランス語を勉強して、

秋に検定を初めて受けた。

書こう書こうと先延ばしにしているけど

大学の学園祭のコンテストにも挑戦した。

 

本も例年以上に読んで、

映画は今年は邦画が豊作だったので沢山観た。

ゲオにも通ってちょっと前の作品も楽しんだ。

 

ブログは、

年始は連続更新につとめたが途中で失速。

それでも書きとめておく習慣はついた。

 

いいことも悪いことも沢山あったし、

身体を壊しそうになったこともあった。

気持ちの持ちようだなと気付いたら、 

ちょっとは労ってやらないとと思うのだった。

 

1、2年生のときは一人暮らしに憧れて

なんとかならないものかと思っていたけれど

バス通学をはじめて、

実家で食べる食事を目一杯楽しむようになると

自宅生をやっていくのも幸せだと思った。

まだまだひとりで生きていけない。

 

冒頭の写真「so tired」は

東京駅のまん前のビルの中に入ってた

カフェの名前で、装飾が美しくて撮った。

まさに1年を終えるとこんな感じで、

疲れたけどいろんな色があって

美しかったなという感想を持っている。

 

今頭をかすめまくっているのは「就活」。

なんでこんなシステムがあるんだろうと

前はちょっと否定的に見ていたけれど

「考えごと大好き」の私には

人生の節目にいろいろ振り返ることができる

ツールや機会がたくさんあって

なかなか楽しいなと思っている。

これからはそんな「楽しいな」じゃ

済まされなくなってくるかもしれないし

自分をアピールするということは

あまりまだ上手に出来ないけれど、

とことん悩んだり、自分を磨いたりして

たぶんどっぷり浸かっていく予定だ。

 

今年もさまざまな人に支えられて

無事に1年をしめることができそうです。

ありがとうございました。

 

喪中のため新年のあいさつは控えますが

来年もどうぞよろしくお願いします。

いのちを見つめる読書

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師走のはじめ、祖父を亡くした。

入院していた病院に駆け付けた父からの不在着信とメッセージが届いたとき、私はスマホを見ることが出来ない場所にいた。90分後、スマホのある部屋に戻って来てやっと情報を受けとった。あっという間のことだった。

 

祖父はとても無口な人だった。

一緒に住んでいたのに会話を弾ませたことは少なかったけれど、私が小学生だったときに音読の宿題を聞いてくれたり、まだ祖父が背広を着ていたときは「じいちゃんがんばるからな」と私の頭に手を置いてくれたりした。火葬場で、私はそういうやさしい記憶だけを思い出していた。

 

無口な祖父から直接、いろいろなことを教えてもらうことができなかった。だけど親戚が集まって、思い出話を聞いていると仕事熱心な人だったことを知った。父はバイクに乗るのが趣味だけど、その趣味は祖父の影響がかなりあった、ということも。私がお酒をよく飲むのも、祖父に似ていると指摘された。

 

今までうちには仏壇がなかったので、祖父の使っていた和室に仏壇をつくって、今はそこで毎日祖父に話しかけている。朝と晩に手を合わせる。祖父に言葉が届くように、心を静かにする。こんなに本当は話すことがあったのだから、祖父が元気に生きているうちからもっと話せばよかった。

 

なにか予感があったのか、今年の私の読書ぶりを振り返ってみると「命を見つめようとする読書」をよくしていたと思う。

 

 

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『ラブレス』は2月に読んでからずっと忘れられなくて秋にもう一度読んだ。『氷平線』もそうだけど、桜木紫乃さんの作品は人の命や人生を静かにとらえている。川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』もまた、生きている人の心の動きを丁寧に描いていた。(主人公の職業は校閲。このあと「校閲ガール」というドラマが放送されて、校閲に対するイメージが広がった)

 

そして祖父が亡くなる少し前から読み始めていたのが、森博嗣さんの『スカイ・クロラ』シリーズだ。『すべてがFになる』と並んで森博嗣さんの著作の中では代表作とされ、ファンが多い。エッセイと自伝的小説(こちらもあとで紹介)、独立した長編の『ゾラ・一撃・さよなら』しか読んだことがなかったので、シリーズ作品を読んでみたかったのだ。

 

架空の傭兵組織に所属するパイロットたちの物語。戦闘機に乗って、空を舞台に敵と「ダンス」をする。墜ちたらそれで終わり。そして、墜ちなければ老いないままのキルドレたち。

 

なんでも良いから手近にあるものを蹴飛ばしてやりたかったけれど、僕はカウリングをゆっくりと撫でてやった。気持ちとは反対のことができるなんて人間って不思議なメカニズムだと思う。(『ナ・バ・テア』より)

 

僕たちに神はない

僕たちが信じるのは、メカニックと、操縦棹を握る自分の腕だけだ。(『ナ・バ・テア』より)

 

 誰が誰と戦っていて、それがどんな理由なのか、そういったものを言葉で覚えることが、戦争を理解することだろうか。それは絶対に違う。(『クレイドゥ・ザ・スカイ』より)

 

エッセイで見る、森さんの鋭い考え方が主人公たちに引き継がれているようだった。無駄な描写がなく、詩的で神秘的な小説だった。(ありふれている感想かもしれない)

 

バイクが好きだった祖父は、今頃どこかを旅しているんじゃないだろうか。うちの周りにいるとは思えない。シリーズ全てを読んで、空の向こうにいる人に思いを馳せた。

 

「学問には王道しかない」という言葉が印象的で、夏目漱石の『こころ』をちょっと思わせる、春に読んだ『喜嶋先生の静かな世界』。それから夏休みの終わりに読んだ、自伝的で父と母の死にまつわることが丁寧に書かれた『相田家のグッド・バイ』。どちらも森博嗣さんの著書である。

 

命を見つめなおし、心を整理するきっかけになりそうな本をたくさん手に取っていた年だった。心だけでなく、流れる時間も整理しなければと思って少し過ごし方も変えてきていた時だった。我ながらこのチョイスが不思議だった。

 

今夜は手を合わせて、祖父になんて語ろうか。

あんまり夜遅くになるとお酒を飲みだすかもしれないから、早く帰ったほうがよく聞いてもらえるかもしれないな。

 

 

alicewithdinah.hatenablog.com

 

 

ナ・バ・テア (中公文庫)

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ダウン・ツ・ヘヴン (中公文庫)

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フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life (中公文庫)

フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life (中公文庫)

 

 

 

クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky (中公文庫)

クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky (中公文庫)

 

 

 

スカイ・クロラ (中公文庫)

スカイ・クロラ (中公文庫)

 

 

 

スカイ・イクリプス―Sky Eclipse (中公文庫)

スカイ・イクリプス―Sky Eclipse (中公文庫)

 

 

 

1/72 スカイ・クロラ 散香マークB 函南優一機

1/72 スカイ・クロラ 散香マークB 函南優一機